【1】死亡推定時刻 15:00

1/3
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

【1】死亡推定時刻 15:00

 最期に見えたのは、誰かが部屋を出て行く足だけだった。  私の身体は少しずつ力を喪い、視界も徐々に暗くなってきた。そして私は身体を動かせなくなった。すると私は風船のように浮かび始めた。身体が軽くなり再び目を開くことが出来た。眼下に自分自身の横たわる姿が見えてきた。この感覚がおそらく幽体離脱というものだろう、つまり私は死んだようだ。  そういう訳で、気がついたときには私は私の死体を見つめていた。こうやって客観的に見る立場になっても、私は周囲がちやほやしてしまう容姿をしているなと改めて思う。頭から多量の血を流してもまるで花冠をしている少女のような私は、本当に罪作りだ。ま、だから死んだのかもしれないが。  これは明らかに自然死でも自殺でもない。私は誰かに殺されたのだ。最期の足はその人物の者に違いない。では誰?ただおそらくそんなに時間は経っていないはずだ。少なくとも床にこぼれた私の血にはまだ輝きがあるし、何か水滴のようなものも落ちている。まだ犯人を見つけることが出来るはずだ。私のプライドにかけて犯人を見つける。調査開始だ。現場は江戸川先生の研究室のようだ。江戸川先生の匂いに包まれて死ぬのは本望だとも感じたが、これは読み倒された昔からの資料のカビ臭さと、ホルマリン漬けのサンプルの匂いだ。先生の専攻だから仕方ないが、残念な死に場所だった。せめて私の遺体は、先生にホルマリン漬けか剥製にしてもらって保管してもらいたいな。そんな邪念が浮かび上がったが、ここで残念な懸念がもう一つ浮かんでしまった。  ここは滅多に人が訪れない、ゴミのように人が溢れかえる大学の中の唯一の聖域。そこで私が死んだなら確実に先生が容疑者だ。先生は押しの弱さに定評があるから警察にも押し負けて道を踏み外してしまうかもしれない。先生、負けちゃ駄目です!  もう居ても立ってもいられず(浮かんでいるんだが)、私は先生を探しに部屋を通り抜けてみた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!