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プロローグ
コン、と硬い金属同士をそっと打ち合わせたような高く鈍い音が響いたとき、集トオヤの視界は、薄い紗のかかったように光が和らいだ。
「な」
何が起こったかと声にするよりも早く、前の席に後ろ向きに座った友人の向こうに、大きな鎌を振り上げた見知らぬ女子の姿があることに気づく。
危ない、と言えなかっただろう。トオヤは自分の両腕を額へかざして、なんとか鎌から逃れようとするので精一杯だった。
「とおりゃっ!」
気楽とさえ言えるような掛け声が聞こえたのは、鎌の空気を裂く音が脳の芯に直接届くような鋭さで通り過ぎるのよりも、ワンテンポ遅い。痛みは、
「――っ」
自分にはなんともない。代わりに友人は、おそらく。
見たくない気持ちと見ないといけない気持ちが、同時にトオヤの腕を制御しようと暴れて、全身が震える。ゆっくりと顔の前に掲げた両腕を下した。
バラバラだ。臭う。何のにおいだろう。血でもない、内臓が切断されることで拡散する糞便のものでもない。ただ、悪臭なのは確かだ。思わず自分の鼻を覆った。友人のことなど思いやる余裕などなく。
「お、どうしたトオヤ?」
教室の床へと転がるのではなく、なぜか切断されてから、ゆらりと宙に放浪している友人の人体部位たちの中から、首で分けられた頭が面白そうに笑いながら言ってくる。まるで、おかしいのは彼ではなく、トオヤの方なのだと言いたそうに。
吐き気がする。おまえ、死んでるぞ、という言葉よりも先に、喉を胃の内容物が駆け上がり占領するのを感じる。なんとか、それを喉元でこらえる。
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