プロローグ

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「うーん、とー」  大鎌の女の子の声に引き戻されるように、トオヤがそちらに視線を向けると、彼女は友人の切断面を覗き込むように顔を近づけていた。何かを探しているようすで、血も涙も出てこない肉のあちこちを見て回る。腕の切断面、足の切断面、胴の切断面。 「なに、してる?」  苦しい呼吸の中で、つまんだ鼻による籠った声だったが、トオヤはなんとかその言葉を非難の色を込めて押し出すことに成功した。 「げっ、見えてるの? ボクのこと」  初めてトオヤに気づいたように、鎌の女子はこちらに目を向ける。声などかけなければ良かったのかもしれない。高校の教室に通り魔が表れるなんて滅多に無いだろうし、それが可愛いといって差し支えないほどの女の子で、よく見たら猫耳や猫尻尾があったりするなんていう、どこかおかしい、いや、おかしいから通り魔で間違いないのだろうか、おかしいから今まで標的がこちらに向いてなかったとしてもおかしくなかったのだろうか。 「ふーん……うん。やっぱりキミは特別な人なんだね」  混乱しているトオヤに向けて、首を伸ばすように顔を近づけてきた鎌女は、そう言って素敵な笑顔を見せてくれた。頭のおかしい人に好かれてしまったのだろうか。トオヤは嫌な予感が去来するのを意識しないよう、無言で鼻をつまんだ腕ごと顔を左右に振る。これ以上、変なものを見るのはゴメンだ。 「じゃあさ、この子のも、見える?」  鎌の刃のついていない方の先端で、友人の頭をつんつんしながら彼女は尋ねてくる。ああ、いよいよ本格的に通り魔の標的が自分に変わってしまったに違いない、というトオヤの失意に、当の友人は、状況が分かっているとは思えないながら、気分悪いのか大丈夫かなどと、話しかけてくる。 「哲夫の、何がだよ」  相手にしないと自分も切り刻まれるかもしれない、という恐怖がトオヤに質問への答えを口にさせた。
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