プロローグ

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「わかってるくせにー。ほら、人間とちょっと違うやつ。あるっしょ?」 「哲夫は人間だ。何も違うことなんてない」  今はバラバラになっても生きているから、普通の人間とは思えないけれど。 「ほんとにぃー?」  トオヤは黙って何度もうなずいて見せる。まだ疑いを含んだ様子で、ふうん、などと納得のいかないながら渋々の返事をして、彼女は姿勢を正すと、大鎌を上下逆さに持って床をひとつ突く。当たり前のコツリという音が、あまりにこの状況には不釣り合いに聞こえたが、それで友人の哲夫の体は、ばらけた各部位自身が動いて、自然と元通りのひとつに戻っていった。さらに鎌を半回転させて、本来の石突でまた床を打つ。コン、と最初に聞いた音がして、彼女の足元にうっすらと魔法陣のような光の円があるのを視認したと思った刹那、彼女は消えて、世界は元に戻っていた。 「なあ、保健室行くか? おいトオヤってば」  少し強めに哲夫が問いかけてくれる。けれど教室の中では横目にこちらを見てくる生徒はいても、積極的に心配してくれる者は他にはいない。これがトオヤに対するクラスメイトの評価だからだ。 「ああ、なんとか」  おかしい行動をする奴。それがトオヤのことを言い表す、彼らの言葉だ。彼らの体から生えているように突き出す、小動物の体の一部は、他の誰にも見えていない。それをトオヤが避けるのが彼らには異常行動に見える。ときおり、彼らの体から、そういう小動物たちを引き剥がしてやっていることも、彼らには気持ち悪いとしか受け取られない。  そう。鎌女が言っていた通り、哲夫にもそれが生えていた。ついさっきまでは。  トオヤは教室の隅に目をやる。そこに、哲夫の背中から引き剥がしたタヌキの左半身を投げ捨てた。ちゃんといつも通り、人から引き剥がせば消えていることを確かめて、そして気付いた。  あの女子には、どうして見えていたのだろうか、ということに。
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