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ハニーキャラメルミックスナッツ掛けスペシャルパンケーキ三段
「すみませーん」
手を挙げて店員を呼ぶ紗南さんは、俺に何の相談もなしにここに入った。女子高生に大人気だとかのパンケーキ屋。甘い匂いが立ち込めるこの店に入った瞬間に、少しだけ気分が悪くなった。こんなにも甘ったるい匂いを嗅いで、良い匂いだと言う人たちの気持ちがよく分からない。
「えっと、この、ハニーキャラメルミックスナッツ掛けスペシャルパンケーキの三段を一つお願いします」
ハニー、キャラメル、ナッツ、ケスぺ、三段? ・・・はぁ? 早口で告げる紗南さんの言葉が、呪文か何かに聞こえる。なんだ、その美少女キャラが使ってる必殺技みたいな名前のパンケーキは。
「うーん、あとは、アイスコーヒーを二つ。・・・で、いいよね?」
「あ、いや、俺はカフェラテで」
「ヒロくん、女子力高いなぁ。可愛い可愛い」
自分自身でも謎の『紗南さんの言う通りにはなってはいけない』という考えからの仄かな反抗も、結局は意味がない。というか、また馬鹿にされてしまった。
「ていうか、そのパンケーキ頼んだんすか? 紗南さん一人で食べきれるんすか?」
メニューの表紙に大きく載っている、生クリームたっぷりの甘ったるそうなパンケーキ。写真の上には大きな『期間限定!』の文字。女の人というのは、期間限定、とか数量限定、とかいう言葉に弱いと聞くが、紗南さんもそうなのか。なんだか少し、意外だ。
「え? まさか、私一人で食べきれるわけないじゃない。全部食べたらまた太っちゃう」
はぁ・・・。最初っから、俺も食べさせられる予定だったのか。
それに、太ることを気にするくらいなら、最初からパンケーキ屋なんて入るなよ。甘いものを求めながらも体型を気にする女は、本当に面倒だ。
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