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魔女の目にも涙
駅前でわかれてから、しばらく紗南さんを目で追っていた。
紗南さんの着る服は、俺が言うことなしなくらいに良い組み合わせやデザインだ。何だかんだ、先輩であることには変わりないから。それに、ちゃんと自分で自分自信を理解しているから、似合う服を選べている。
俺はデザイナーだけど、自分の着る服には興味がない。ただ昔から好きだったファッション雑誌が、今の俺を作っただけだ。
「はぁ。帰ったら仕事か」
小さく溜め息を吐いて、バス停に向かう。
最近は、いい案が全然浮かばない。もしかしたら、生クリームと戦っている方がましなのかもしれないと思うほどに、仕事が嫌になっていた。
天才も、悩みくらい抱える。
ピロロロン。
ポケットの中にしまったスマホから、メールの着信音がなった。
パスワードを入力してメールの受信トレイを確認する。
「助けて、お願い」
はぁ? 差出人は、
≪羽島 紗南≫
紗南さん?
普段なら、ふざけているようにしか思えないのに、今は何でか、不安でたまらない。何があったのかも分からないけど、泣かせてはいけない。
必死になって、紗南さんの歩いて行った方へ走った。
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