Rainy day

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 大丈夫か、と言いかけて一瞬固まった。  腕の中の女の子は、先週の金曜日に大ゲンカした紗菜(さな)だった。 「なんでこんなところに」  心の準備ができていないときに現れるなんて反則だ。  心臓がバクバクと派手に早鐘を打つ。 「藤野(ふじの)くんこそ、わざわざ人気(ひとけ)のない場所でスマホ片手に何してるの」 「のぞいてたのかよ」  「人聞きの悪い。たまたま屋上に来たら、藤野くんがいただけよ」 「あ、そ」  場が和む会話しろって。  わかっているのに素直になれず、よそよそしい態度をとってしまう。  さっきのLINEだって、謝ろうとしてたんだ。  けど、上手く言葉がつづれず送信できなかったなんて情けなくて言えない。  ケンカのきっかけは、ささいなことだった。意地の張りあいでどんどんエスカレートして、最後には「今生の終わり」みたいに泥沼化。  それが金曜日で、謝るタイミングを逸したまま悶々と週末を過ごし、今日に至る。
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