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謝ればなんとかなりそうな気がしてた。
でも実際会ったら、漠然とした恐怖が生まれた。
ふたりの繋がりは、完全に切れてしまったんじゃないかって。
「帰るの、藤野くん」
無言で一歩踏み出した俺に、紗菜が問う。
その声にかすかな険を感じて、意固地になった。
「俺がいなくなってせいせいするだろ。じゃあな」
視線も合わさず、紗菜の前をすっと横切った。
胸がきりっと痛んだのは無視だ、気のせいだ。
「藤野くん」
小さく名前を呼ばれ、足を止めた。不安な気持ちで振り返る。
すると、数歩後ろで紗菜が目を潤ませながら俺を睨んでいた。
「な、なんだよ」
一瞬ひるむ。紗菜は口を引き結び、トートバッグから一冊の本を取り出した。
区立図書館のバーコードがついた古めかしいハードカバーで、白かっただろうその本はセピアに退色していた。
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