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差し出された本の意味がわからず呆然としていると、紗菜が耐えかねたように押しつけてきた。ずっしりと重みのある本だった。
「藤野くんが読みたがってた物語。もう興味ないかもしれないけど……一応、約束したから渡しておく。じゃあね!」
「は、約束って? おい紗菜!」
一方的に話を切り上げ、紗菜が早足で階段を駆け下りて行く。
ここは追うべきか。いや追ったら追ったで、うっとおしがられるだろ。
「ああもう、」
約束ってなんだよ。腑に落ちないまま本に視線を落とすと、タイトルは「エックハルト童話集」と記されていた。児童書だ。
これ、もしかして……パラパラとページをめくると、俺が小学生のころ好きだった物語が収められていた。
――三つの願い。
願いを叶えてくれる卵を探しに旅立つ少年と少女の話で、苦難を乗り越え卵を見つけた少年たちは、孵化した金色の鳥に願いを三つ叶えてもらう。
その最後の願いが何だったのか、どうしても思い出せないでいた。
いつだったか紗菜に話した覚えがある。作者もどの童話集に収められた物語かも忘却の彼方だった。
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