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三階から二階の教室に走る。いない。さらに一階まで駆け下りた。
好き……その後に書かれていた言葉が、俺を責める。
『わたしたちはこのまま変わり続けて、他人になっていくのかな。特別だった時間は、炭酸の泡みたいに簡単に消えて、二度と戻らないのかな。それでも、藤野くんのことが、好きだったよ』
紗菜のばか。過去形かよ。
胸の奥を細い針で突かれたような痛みが走った。くそ、と自分に毒づく。
つくづく馬鹿なのは俺だ。意地を張っていた数分前の自分が恨めしい。
息を切らしエントランスまで走ったものの、紗菜を見つけることはできなかった。
陸上部が休みの今日は部室にもいないだろうし。
ガラス張りの扉の前に立ち外を見ると、いつの間にか雨が降り出していた。
サッカー部のやつらは撤収もせずゲームを続行してる。
地面に叩きつけられる雨音が、だんだんと強くなっていく。
なにやってんだろ、俺。不器用な自分に嫌気がさす。
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