1人が本棚に入れています
本棚に追加
思わず、スマホが手から零れる。
ネット上のニュースには「春日舞」の自殺を仄めかす文章が掲載されていた。
「うぇっ」
思わず、立ち上がる。頭が真っ白になった。
しばらく鳥を絞め殺したような――自分の声だけが脳内で木霊した。
……自殺、だって。
俺は悪夢でも見ているのか?
さっき起こされたのも実は悪い夢で醒めたら現実が待っているとかではないのか?
本気で、頬をつねる。激しい痛みと共に父の怒号が耳を刺した。
「さっさと来い」
腕を掴まれた僕はまるで荷物の如く、後部座席に放り投げられた。バタン、と勢いよく閉められたドアに踵をぶつけてしまう。
骨に反響する痛みだけが俺の意識を繋げている。
「親父」
「なんだよ。眠てぇならさっさと寝てろ」
「丸笑公園まで、行ってくれないかな」
「何かと思ったら。そこら辺で一回ガソリン入れて、ついでに昼飯食うって言ったろ」
「そっか」
丸笑公園。
市内でも一番大きな自然公園で、小さな川や森林もある為小学生の遠足にも使われたりする場所だ。
今はほぼ散っているが、桜の名所であり同時に――自殺の名所でもある。
そこに向かったものが引き寄せられるように川に飛び込んだり、森林の奥にある崖から飛び降りたり、中には首吊りするものも居たとか。
公園に行ってどうする?
何も考えてはいない。だが、春日舞が死んだかもしれない……そんな話が嘘だと信じる為にこの目で確かめなくてはいけないのだ。
ネットのニュースなんか信じてたまるか。昨日まで当たり前に信じていた媒体へ唾を掛ける。都合の良い情報だけ信じる。
傲慢だ。そんな傲慢を信じるしか今の俺にはもう、できなくなっていた。
四輪駆動のエンジン音がまるで遥か遠くの事のようだった。
最初のコメントを投稿しよう!