嗤う桜

3/6
前へ
/16ページ
次へ
『そこがお前の行くべき場所だよ』  まただ。  彼の声がする。  ここ、が。  ……そうか。  ここに来るために、俺は公園まで運ばれたんだ。  何もできない荷物として。全部を失って、ここまで流れ着いたんだ。  頭が、ぼーっとしてきた。  まるで夢の中にいるような気分。  一歩、前に進む。  足元の枯れ葉が重力に吸い込まれる。  一瞬、家族の顔を思い出す。  視線は下へと引っ張られる。  ……お荷物はもういらないよな。積み荷を降ろした方がきっと車も軽くなるだろ。  もう、悩む必要がなくなった。俺はきっと違うところに行くべきだ。 「行ってきます」  下半身に力を加え、冷え切った筋肉を無理矢理伸ばす。そのまま体は重力に委ねられた。  一瞬零れた悲鳴を抑えようと口を塞ぐ。  ――これで、いい。そう思った矢先の事だ。 「いっ」  崖から伸びている木の根が、腕に引っ掛かった。  だが、安堵する間もなく体は滑落していく。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加