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『そうだ。そのままでいい。お前はこの地獄を――』
――死期を覚るとは、こういう感覚か。
夢から醒めると、重力に振り回されるような感覚に陥った。
頭はぐらぐらと揺れるが幸い身体は大きなベッドに支えられている。
春の柔らかな日差しも今は暖かさを感じない。
「そっかぁ」
幼い頃から見知った大きな病室で僕は小さく、呟く。
最近めっきりと弱った心臓近くに掌を当て鼓動のペースを確認する。
「なんだ、割と元気じゃないか」
悪夢にうなされ、脂汗を滲ませる体表。
鼓動はばくばくと叫び僕から寿命を削り取っていく。
「春日さん」
「あ、はい」
看護婦さんがタイミングよく僕を呼んだ。きっと、父さんが見舞いに来たのだろう。
「お父様がいらっしゃいましたよ」
「わかりました」
予想通りだ。父さんは仕事が半ドンになる土曜日はよく見舞いに来てくれる。
そして見舞いに来ては美味しいもの食べるか、なんて聞いてくるのだ。
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