零れた荷物

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「おい、起きろ」  梟を思わせる低い唸りが夢の続きを掻き消した。  幻想から醒めた風景は白い壁で形成された物静かな一室。引越し直前の生活跡地が自身を取り囲む。 「大樹。もう時間だ。その雑誌も車に乗せるんだろ。さっさと仕舞え」  時間、か。  ぼんやりとした頭で目覚まし時計を取ろうとするが、それはすでにダンボールの中。  場違いな行動を父は愚弄する。 「寝ぼけているのか。ったく、片付けだけでヘタレやがって。そんなヤワにしたつもりはないんだがよ。ほら、いくぞ」  そう言い残して、父は木造のドアを開いた。外からは四輪駆動車のエンジン音がぐわぐわと唸る。  湖に浮かぶアヒルは呑気に仕事を待つのだった。 「……どこに行くってんだよ」  長く伸び、不揃いな髪をがしがしと掻き分ける。冷たい床から上体を起こし枕替わりにしていた雑誌を掴む。  今年……否、去年度発行された地域向けの雑誌。「二月号」という文字の転写された風景写真を捲る。  何度この動作をしただろうか。すっかり折れ目の付いた二十一項。誌面の下半分を占領する絵画コンクールの受賞者リストに俺の名前が載っていた。 「永礼大樹 十九歳」  雑誌に載ったという事実は心地の良いものだ。旧友に見せつけて奴らの驚く顔が見てみたい。  だが、それには足りない。足りないのだ。
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