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「訪れない春」は失敗作だった。
ただ不気味な味付けをして、幸せな人間を嘲笑う。それだけの絵に価値はなかった。
否、自分は価値を見出せなかった。当たり前だ。
嗤う側の人間も、「人間」だ。
僕の心はとっくに悪魔へ売り渡していたのだろう。「人間」に所属する事を僕はもう飽きていた。
卑怯な最期だと思う。
不快な絵画だと思う。
絵の中心で枯れた桜の木が、その太い根を掘り起こし烏や雀を締め上げる――そんな絵だ。手前には悲鳴を叫ぶ烏の顔をデカデカと描いてやった。
ポイントを挙げるならば「締め上げているが、絞め殺してはいない点」だろう。全ての鳥類は口を開け、鳴いていると気付く者は居るのだろうか。
地獄のような一時を喚く鳥類。
自由を謳う翼は意味を成さず。
それでも彼らは生きている。生きてしまっている。
それぞれの生を全うしろ。
逃げ出すな。
その健やかな身体で不自由に飛べ。
この絵は、今は仕舞っておこう。いつか両親が見つけてくれるだろう。
――あとは自分のやることは、一つだけ。
最大の皮肉を込めて、卑怯な最期を迎えるだろう。長続きしないのならば残りの時間等、誤差でしかない。
「父さん、ちょっと気分転換に行ってくる」
「そうか。もし絵ができたら父さんに最初に見せてくれないか」
「分かった。きっと驚くような作品になっていると思うよ」
市内で一番の、桜の名所はどこだったか。
春は僕の好きな季節だった。桜は綺麗だと、思った。皮肉しか話せない僕が美しいと思った唯一の景色かもしれない。
丁度、見ごろのソレを見に行こうではないか。
どうせ最期の景色だ。場所くらい選んでもバチは当たらないだろう。
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