真夜中

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それはいつも真夜中だった。それなのに嫌な顔一つせず彼は迎えに来てくれていた。かぼちゃの馬車のような車で。私にとってそれは王子様のお迎えだった。かぼちゃの馬車を王子様が直々に運転するのも変な話だけれども。 この車も中古だからねと彼が笑った。普通のガソリン車みたいな音でなく、カタカタとかわいい音がするのも毎回楽しかった。 彼はたくさんドライブをして、色々なところへ連れて行ってくれた。土手の草むらに寝転がって星を見たり、珍しいイルミネーションを見たり、まっすぐな山道をちょっとだけ飛ばしてジェットコースター気分を味わったり。本物のジェットコースターは閉まっているから。 「いつか昼に予定が合えば、遊園地行きたいね」なんて言ってた気がする、私。 でも行き先はいつも同じだった。町外れから山に入った大きなお屋敷の小さな離れ。彼はそこに城を持っていた。着く頃にはとっくに周りは寝静まっている。毎回私たちは音を立てないように部屋に入り、そこで一息つく。 彼は誰もが夢見る王子様になりたくて上京し、夢破れてこの田舎に帰ってきた人だ。私はその夢の話をずっと聞いていた。ずっとずっと聞いた。何度も、何時間も、何日もその話をしていた。それは彼にとっては自分で見て聞いてきた現実の話だけど、私にとってはおとぎの国の話のようで、いつまで聞いていても飽きない。 かと思えばふと話が止まってしまうことがあるのだ。そんな時は何も喋らずに彼の手を握ったり、体を撫でたりしていた。 そして明け方になると私は私の現実へ送り返される。また遊ぼうねって言いながら別れる。そんな風なことをしばらく続けていた。 いつのことだったかはもう覚えていない。だけど、その時も真夜中だった。 どうして私と会おうと思ったのか、なぜ私なのか、彼は話してくれた。 彼の夢が破れた時、彼の友人は去った。彼はたくさんのものを失って、失意のうちに帰郷していた。 興味本位で話しかけたり噂をする人を恐れるうちに、人そのものが怖くなった。加速度的にあらゆる事象に対する恐怖心が増していった。人のいる、明るい時間の外出ができなくなった。彼自身、これでは本当にダメになると危惧して、せめて夜ならと、夜中動ける知り合いを作ろうとした。たまたまそういう時に私と知り合ったのだそう。
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