此岸の岸にて

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彼、カエデと私が出会ったのは、学生の頃でした。 何のことはありません。大学のサークルの新歓が出会いの場です。2つ年上で、同じテーブルの友人とお酒を飲んでいた彼が、その当時はとても大人に見えました。柔らかい、暖かな光に照らされた彼の横顔がとてもきれいだと感じたことを、今でも覚えています。 彼はサークル活動積極的に参加していた方で、私もまたそうでした。多くの人が入部はすれど幽霊となってゆく中、私たちは顔を合わせる機会が多かった。そうなれば自然、会話も増え、お互いの事を知ります。彼が卒業するまでの2年間、私たちにはそれだけの時間がありました。そうしてその時間は、お互いが惹かれるのにもまた、十分な時間だったのです。 「卒業式にこんなこと言うのもあれだけど……付き合って、くれないかな」 サークル仲間から渡された花束やら色紙やらを腕に抱えて、それらに顔を埋めるようにした彼にそう言われ、私たちの関係は友人から恋人に変化しました。とはいえ、別に関係の名前が変わっただけ。立場的な変化による変化はあったものの、お互いのお互いへの接し方には何一つの変化もありはしませんでした。
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