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東谷と沢崎が巧みに反撃したためか、敵の攻撃が一旦止んだ。だが、どこか変だ。
二人はまたレストランで合流した。
「連中は、俺達を裏手に追い立てようとしているらしい」
沢崎が言う。
「ああ。俺もそう感じた。だが、妙だ。裏で戦闘が起こった様子はない」
東谷が応える。応戦しながら、木戸達が逃げた裏の林の方にも注意を向けていたが、特に襲われた気配は感じられなかった。
「敵もあまり統率がとれてないんじゃないか? あるいは、例の怪物とやらが敵のことも襲ってくれたのか」
沢崎が言う。常に何気ないふうな口調で、東谷はいらだった。
「木戸さん達が怪物と遭遇した可能性もある。そろそろ行くぞ」
東谷が促し裏へ出た。敵の攻撃はない。
林に向かう途中、沢崎がしげしげと東谷を見た。
「何だ?」
「あんたほどの刑事が、何故こんな田舎にいる?」
「俺なりの事情があるんだ」
詳しいことを話す気にはならないし、そんな状況でもなかった。ただ、思い出していた。
SATを辞めた理由――。もう、何年も前のことだ。
拳銃を持った2人組が、強盗を働いて追われ、民家に立て籠もった。横浜の住宅街だった。人質は幼い子供2人とその両親。時間は夜から深夜にさしかかろうとしていた。長期化すると、何より中の子供達が心配だった。
突入が決まり、東谷はその家の一階、庭側からの班に加わることとなった。
あの時の自分の行為は、間違ってはいなかった――。今でも東谷はそう思っている。
突入後、リビングに入った東谷が最初に見たのは、犯人のうち一人が、必死に母親の元に駆け寄ろうとした5歳くらいの女の子を追いかけているところだった。その手が女の子の首根っこにかかろうとした時、東谷は躊躇わずに犯人を撃った。女の子に危険が迫っていると感じたからだ。その場で殺されないまでも、その子を捕まえ、盾にして逃げようとするに違いない。その際に女の子に危害が加えられる恐れは大いにあった。
東谷が撃った男は即死した。もう一人も取り押さえられ、人質は無事に保護された。
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