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十五分も歩くと、野原は林になり、そして森になった。
もう何年も前から「元」という頭文字が付いているハイキングコースは、人が気軽に足を踏み入れることを良しとしていないらしい。
鬱蒼とした草木や薄気味悪い暗さ。ねっとりとした不安感を呼び起こす空気。それらが、人知を越えた何かが潜んでいるのではないか、と思わせる。
大久保雅俊は、これ以上先に進むことは無理だと感じ足を止めた。
四人ともちょっと暇つぶしに歩いてみようという感じで道の駅から出てきただけで、歩き難いがけして険しい道ではない。なのに、身体を不快な疲労感が襲ってきた。疲れたのではなく、言い知れない不安が押しよせてきて、身体に残っている力を蝕んでいくような感覚に襲われる。
「どうした? 顔色が悪いぞ」
先頭を歩いていた阿田川伸也が振り向いて言った。
「もう戻ろう」
立ち止まり、応える大久保。
「そうしよう」
後ろを歩いていた北沢絵里香が言った。心なしか、彼女の声も震えている。
「気分でも悪いのか、二人とも?」
「大丈夫?」
阿田川に並ぶようにして歩いていた戸沢梨沙が、絵里香の方に歩み寄った。
「何だか、妙な気分なんだ。胸の奥から冷たい気分が湧いてくるというか、意味はないんだけど、とっても不安になってきた」
「私も……」
絵里香が、同じ感覚の者がいるのを喜んでいるかのような表情になった。
「二人揃って気分が悪くなるなんて、変だな。高山病になるほどの高地じゃないし、妙なガスが出るような地域でもないのに」
首を傾げる阿田川。彼と梨沙は何ともないらしい。
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