ひたひた

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 これぞ弾丸ライナー。いや、弾丸ロケット。  凄いぞ。何て走りをするんだ神原薫。多分きっと陸上部だった僕もまるで意に介さない。  しかし、知っている。知っているぞ神原薫。この僕は君の背中を知っている。 やっぱり君はこの僕の大切な何かだった。  離されてなるものか。そんな事になれば幽霊の教示にもとる。  まだまだこれからだ。三階の廊下は長い。出口まではもっと長いぞ。  この僕も弾丸ロケットとなって神原薫の背をぐんぐんと追い上げる。全力必死の幽霊超特急。  君のその背中に取り残されてなるものか。  時間にすればほんの僅か数瞬に過ぎなかっただろう。  走り慣れた三階の廊下は地獄のストレート。駆けれども駆けれども。追えども追えども追いすがれぬ背中は真っ直ぐなトラックの彼方に。  速過ぎる。そんな馬鹿な。追いかける幽霊が追いつけない背中なんて・・・。 「あってたまるか!」 この僕は駆けた。無い足を無理矢理に全力回転させて駆け続けた。  激しい呼吸が喉を焦がす。これだ。生きてるってこんな感じだった筈。  神原薫はけれども早い。  これでは本当に新幹線。びゅんと風を切り、上履きを焦がすドリフトターンで廊下から階段へと一縷の無駄も無く踊り込む。  くそう。なんて教師の卵だ。だが-。 「負けるわけにはいかないんだ!」 そう。これは決してこの僕が幽霊だからではない。幽霊の責務など、神原薫のこの走りの前では最早どうでもいい。  そうなんだ。この僕はただただ君に負けたくない。君の背を追い越さなければならないんだ。  どうしてって、それは・・・。  ぜいっと思い切り息を吸い込んだ。両の肺パンパンに空気を膨らませてこの僕もV字のターンを切って階段に飛び込む。  負けて堪るか。今日こそは絶対に君に勝つ。  そうだ!  この僕は君の背に全てを思い出した! 「待ってくれ!」 階段を十三段飛ばして跳ね下りた。つまり踊場への全段抜きジャンプ。  くそっ。流石の幽霊でも一発で左足がおしゃかだ。  でも負けたくない。もう一回。  君の背中にもう手が届きそうなんだ。 だあん!  凄い着地音でやっぱり今度は右の足がおしゃかになってもう立てないけれど、けれど今日こそ確かに君に勝ったぞ、神原薫。
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