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今、間違いなくこの僕が一度も勝てなかった君の前に躍り出て廊下に転がっている。
見れば、神原薫も額から大粒の汗を落として肩で荒い息をついている。
勝った。遂にこの僕が勝った!
「負けたの、初めてだね」
そうだ。今日はこの僕が勝ったのだ。話を聞いてもらうぞ神原薫。
「しかし、酷い顔だね。薫」
そうだ。思い出したのだ。この僕の名前は加納薫。イニシャルは揃ってK・Kの二人の薫。僕は幼馴染の君が好きだった。
「まったくさ・・・」
ぜいぜいと二人で息を切らす。
「ほんとにただの遊びの駆けっこだったのに、階段飛び降りて死んじゃった時はどれだけ泣いたか・・・」
みるみる神原薫の目に涙が溢れ、零れて落ちていく。
きっと僕は酷い顔をして死んだのだろうな。涙が僕の顔に落ちて濡らしていく。
ははは。幽霊でも温かい。
「まさか本当にまだ残ってるなんて」
「ああ、どうしても言いたいことがあったんだ」
「うん。この駆けっこで勝ったら言うって約束だったよね」
「うん・・・」
もう一度、無い肺に息を吸い込んだ。
「死んでも好きだ」
神原薫は声を上げて笑った。莫迦みたいな大声で体を揺すって笑った。僕もきっと笑えてる。
「莫あ迦!」
そうだ。男はきっと皆大莫迦だ。
でも、これで成仏できそうだ。
バイバイ、もう一人の薫。いい教師になれよ。
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