ひたひた

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 何の変哲も無い学校である。  三階建ての古びた校舎がぼんやりとグラウンドの脇に建っている。  随分と長い間、恐らくはここが創立されてから一度も修繕など行われた事はないのだろう。錆びたフェンスは傷みが目立ち、盗みにでも入ろうと思えば侵入は容易いだろう。校舎の外壁にも黒ずみがひどく浮いている。校庭を囲む樹木や、その足元にぼうぼうと生える草花も如何にも手入れがされていないという感じで、前時代的な良くも悪くも大雑把な雰囲気が漂っていた。  見るからに出そうな学校である。  そして、ここには本当に出るのだ。公立K高校の怪談話。  今年もここに瑞々しい、ちょっと場にはそぐわない空気を纏った実習生がやってきた。 『皆さん、本日から短い間ではありますがよろしくお願いします。K大学から教育実習生としてやって参りました、イニシャルもK・Kの神原薫と申します。私もこのK高等学校の卒業生ですから、クラスの担任補佐としてだけではなく、先輩のOGとしても・・・』 はきはきとした話し方の女である。滑舌が良いし、良く通る声で眠くならなそうなのが良いと思った。  何しろ普段の授業では起きている方が難しい。学校の外見に違わず、教室から窓の外に望む風景も至極ぼんやりとしたものなのだ。代わり映えのない中年教師たちの授業は念仏や読経にも似て、多少の刺激くらいなくてはとても耐えられるものではない。
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