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そもそもがもう何年も座り続けているこの教室や学校に話し相手の一人もいないわけで、毎年毎年同じ科目の同じ授業が繰り返されているわけだからノートなぞ最早とる必要すらない。門前の小僧など顔負けに教師の弁を暗誦する自信がある。
全く以て何故に昼間は誰もこの僕の存在に気づいてくれないのか。
といって、放課後になる度に生徒か教師かの如何を問わずに誰かしらの度肝を抜いている筈であるのに翌日には存在の記憶が夢泡沫の如くに霧消してしまうのだから幽霊というやつは本当に悲しいものだ。
それもこれも、この数年間の間考え続けてきた結果として、恐らくはこの僕を縛りつける念の様なものが作用しているのだと思われるが一向にそちらが解決する兆しはない。
つまり、期限無しの永久一人留年とも言える。
しかも授業に出席し続けている割に学力は高校生レベルから一ミリたりとも上がらない。
ああ、地獄があればまさにこの世が無間地獄である。この僕だって、できる事ならば教室に行儀よく居並んでいる若々しい級友諸君と卒業していってしまいたいのである。
そう、今日はしかし何かがびびっときた。
この世ならぬものの勘である。いや、実際この世もあの世も何だかもうどうでもいいと言えば良いのだが、今日は久し振りに何かがぞくっとこの僕の背中を駆け抜けていった。
そうだ。あの実習生、神原を見た途端にだ。
我が愛すべき級友たちともさして変わらぬあどけないあの顔にびびっときた。
凛と通る声にもなにか頭の天辺から雷に打たれたような直感が背筋を走り抜けた。全身の毛穴が開くこの感じ、何かがあるに違いないと、この・・・、むう。
ええい、生前の名前がどうしても思い出せないのだが構う事もないだろう。とにかくこの僕の超自然的な感が何かをびしびしと訴えているのだ。
イニシャルがK・Kだか何だかそんな阿呆な話はどうでもいいが、見れば見る程怖がらせ甲斐のある綺麗な顔をしている。健康的なのも幽霊的にぞくりと魅力的だ。
神原薫。そう、神原薫か。あの女を恐怖で引き攣らせてやる日が今から楽しみで仕方ない。
きっとその日も遠からずやってくる筈だ。やはりこの僕の勘がそう言っている。
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