ひたひた

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 きゃああああああああ。  ふふふ。いい悲鳴じゃないか。そうだ。もっと泣け!叫びを上げろ!  この僕が『ひたひた』だ。  今日もぼんやりと平和に寝ぼけた生徒が放課後の教室へ入ってきた。  不思議だが、どうしてかこの時間だけ、一人きりでこの教室へ来るとこの僕に気が付くらしい。  今日の獲物も名前は知らない。そんなに毎年毎年級友だからって名前を覚えていられるものではない。  大体が『おはよう』とか言ったり、世間話することもテストの話する事もないのだから名前なんぞに興味はない。  とにかくいつも目立ってぼうっとしている女だ。  見た目もぼうっとしていて授業中も殆どぼうっと外を見ているけしからん奴だ。思い切り脅かしてやっていいだろう。そう、心臓が飛び跳ねるくらいに。どうせなら勢いで口から飛び出していってしまうくらいに。  ははは。そうだ。もっと叫べ。泣き喚きたまえ。  授業を無下にされている教員たちが見たらさぞ留飲も下がるのではないだろうか。今日の場合はちゃんと授業を受けない罰である。  ははははは。しかし、勿論この僕に気づくという事は概ね近くには誰もいないという事で教員が駆けつけてくる事もない。  そう言えば、神原薫はどうしているだろうか。不思議だ。気になるぞ。あの神原薫の顔。  これは余程のこと幽霊ウケする顔だったという事なのだろう。思い出すだけでドキドキと心臓が高鳴る。  もうとっくに無い筈なのだけれど、それでも心臓が飛び跳ねて本当に口から飛んでいってしまいそうな感触までリアルに感じるぞ。  どうしたんだ。この僕。おかしいぞ。  いや、しかし今あの神原薫はいないのだ。目下、目の前の獲物へと集中しなければならないのだ。
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