ひたひた

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 さて、ここからが本番だ。  『ひたひた』のひたひたたるところで追っかける。  そう、この僕は学校の中にいる限りどこまでも後ろを追っていく。相手が誰でもぴったりと背中に貼り付いて離れはしない。  慌てて転びそうになりながら駆けていくやつの後ろから追って追って追いまくる。追いかけて追いかけて、怯える相手をそれでも追いかけ続けて許さない。  怯えてる人間というのは敏感に分かるんだな。  まだ駄目だって。  そう、まだ駄目なんだ。いつまでも、このあの世のものがくっついている事が分かるんだな。  もう息をぜえぜえ切らして足を縺れさせて必死に駆けていく。  ははは。今日の獲物のこの慌てっぷりと言ったらないな。今年一番に幽霊冥利に尽きる。こちらも頑張ろうという気になるものだ。  いいぞ、いいぞ。もう命からがら体一つという感じで逃げていく。  ははははは。どんなテレビ番組よりもこれは面白いぞ。  まあ、実際のところこの僕が見ていた時よりもお笑いなどは進化しているかもしれない。テレビを見る機会はもうあるわけがないから関係ないけれど。  こうなっては毎日のこの時間だけが楽しいのだ。  罷り間違ってもこの僕は何も一切の危害を加えない。ただただ追いかけ続けるのだ。 といったものの、しかし今日のこの女子生徒はなかなか踏ん張っているぞ。  三階から二階へ。ぐるぐると廊下をまた回って・・・。  おい。また三階って、帰らないでどうするんだ。下駄箱は一階だぞ。 ・・・ぜえ、ぜえ。 くそ。この僕の方が息が切れてきちゃったじゃないか。  なかなかどうして。凄い体力だ。いつも教室でぼうっと生きてるだけの人間に見えたのに。人は見かけによらないな。  くそっ、駄目だ。苦しくなってきた。胸も無い筈だけど流石にこれは苦しい。 うむ、こうなったらもうやってしまおう。  本気を出すしかない。  こう見えても見えなくても足には自信があるのだ。  相手は背中を弾ませて、たまに意味不明の譫言に似た悲鳴を上げて逃げ惑っている。  この僕が遅れを取るわけにはいかない。  ここだ。一気に抜き去ってやる。
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