世界はハートで壊されて

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「ハルちゃん、返して」  倫也は困ったように眉を下げている。  晴人は倫也を困らせようとしていた訳ではないのだけれど、大きな図体で弱気になっている様子の倫也に意地悪な心が芽生えた。 「いいでしょ、半ズボンでも大丈夫だって」 「え、やだよ」  倫也は朝早く登校して学校指定の制服から体育着に着替えるのが日課だ。  なぜかというと、学校指定の制服はブレザーに半ズボンで靴下は白と決められているからだ。  倫也は他の小学6年生と違い恵まれた体躯のため、大人と引けを取らない体格ではとてもじゃないがブレザー半ズボンは似合わなかった。  晴人は悪戯に倫也が着替えようとしていた体育着のズボンを奪って返さない。  倫也は朝の教室に二人しか居ないこの時間に早く着替えたかったのだが。 「ハルちゃん、早く、皆来ちゃうから」  上着は半そで体育着に着替えたものの、ズボンは晴人の手中にあるためパンツ姿で落ち着かずソワソワしている。情けない倫也にぷっと晴人は吹き出して「しょうがないな」と返してやる。 「ありがとう」  意地悪していたのは晴人なのに、倫也は素直にお礼まで付け加えてせっせと履きだす。 「毎朝、着替えるのに早く登校するのも大変だね」  クラスメートより脛毛が生えている足を隠したいのか、倫也は夏だろうが体育着は長ズボンだ。 「ハルちゃんが付き合ってくれるから平気だよ」  屈託なく笑う倫也に誘われるよう晴人も笑った。  頭が何個分も違う同級生が可愛くて、晴人は放っておけないのだ。  170センチまで達そうとしている長身の倫也が、随分前から制服を着たくないのを分っていたから、晴人が朝早く登校して着替えるようにと名案を出したのである。  一応登校時には指定制服でないとダメという規定があるから。
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