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頭が真っ白になった。
「お父さんの連絡先、教えてもらえないかな? ぼく?」
足元から地面が崩れていくような錯覚に陥る。地球全体が粉々になって、潰されてしまうような。
根底から全て壊されていくような。そんな非現実な感覚が倫也を襲った。
「大人の話し合いできる人いるでしょ? 教えてくれねーかな、頼むよ。
俺もさ、君みたいな子供に乱暴なことしたくねーのよ。分かってくれるよね?」
立ってもいられなくするような、悪魔のような囁き。
言葉を失い、目を見開いたまま、瞬きも忘れた倫也は息もできずに震えるしかなかった。
そんな倫也のズボンのポケットからスマホを抜き出す。
「ええっと・・お父さんの番号は・・・」
勝手にスマホをいじって「お、あったあった。偉いね、今時の子なのにちゃんとお父さんで登録してるんだー」と感心しながら、連れの男に「番号控えておいて」と画面を見せている。
全部が映画を観ているようなスローモーションの動作で、男は口角を上げながら倫也のポケットにスマホを戻す。
「ありがとうね、ぼく」
労わるように倫也の肩を叩いて、去ってゆく。
「うえっ、げぇっ」
家に入るなりトイレに駆け込んで胃の中のもの全部吐き出す。
指が痺れて感覚がない。嫌な脂汗が背中から大量に溢れている。制服のワイシャツが張り付いて気持ち悪い。
不思議と暑さは感じない代わりに全身に悪寒が走り、身震いをした。
何度も、何度もえずきながら、便器に顔をつっこむ。
生理的な涙が溢れて、汚物と一緒に零れ落ちてく様を呆然と眺めた。
もう信じられなかった。
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