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辺りは真っ暗な夕闇に包まれていた。
生ぬるい風が頬を撫でる。
居間の窓が開いていた。
そこから風が吹き込んでいるようだった。
どこからが夢で、どこからが現実か、定かではない。
優しい母の面影、白いカーディガン、父が倫也を呼ぶ声、それらは夢だったのかと気付いてから、耳元で囁かれた悪魔の言葉が蘇り、全身をゾッと粟立たせた。
恐らくあれは現実だったのだろう。
身体がそう教えてくれている。
確かトイレで気絶したはずだった倫也は居間にバスタオルを枕にして横になっている。
窓の外から小さく人の話し声が聞こえていた。遠くから聞こえるそれに耳を澄ます。どうやら電話で話している心地の良い声の主を想い倫也はふっと唇の端を持ち上げる。
しばらくそうしていると玄関から人が入ってくる。ギシギシと踏み足が近づくと胸がドキドキした。まさか倫也の思っている人と違ったら、どうしよう。
「い、おりさん・・・?」
少し心配になり小さく呼んでみる。
するとバタバタと駆けて居間に飛び込んできた矢田は「大丈夫か?」と倫也の元へ急いでやってくる。
その姿を見て、初めて倫也は安堵の息をついた。
「お前、なにがあった? また過呼吸だろ?
電気止められてるし、一体どうなってるんだよ?」
矢継ぎ早に質問攻めにされて倫也は答えに困る。
ただ矢田の顔を見れたことが嬉しくて、思わず手を伸ばす。
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