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遠くから、声が聞こえたような気がした。
でももう少しだけ姉と一緒にいたくて、気付かないふりをする。向かいの姉が、気付かないわけはないと分かっているのに。
「ほら、ミラが呼んでるよ」
顔を持ち上げて言う姉に、ナツキは頷き返した。
「うん。じゃあ行ってくるね」
「気をつけてね」
姉の見上げる先をナツキも見つめ、地面を蹴るようにかかとを浮かせた。そのまま身体が宙に浮き、次第に母の声が鮮明に聞こえてきた。
***
「ナツキ」
「……ん、おはよう、母さん」
ナツキが目を開けると、ミラはナツキの顔を覗き込むように立っていた。いつもはこんなに近くから起こされることはない。団長の言う通り、慣れないことで疲れが溜まっているのかもしれない。
「おはよう。水を飲んだら、戦闘班の方に行きなさい。スバルは先に行ってるわ」
「わかった」
ナツキはすぐに起き上がると、ミラから渡された皮水筒の水を一口飲んだ。そしてマントを羽織って刀を手に取ると、テントの外へと出た。
空は夕暮れの赤を通り越して、もうほとんど濃い青紫に染まり、その中でたくさんの星たちが瞬いている。昼間と同じように雲はなく、夜道にはありがたい快晴だ。
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