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あちこちに張られたテントでは撤収作業が進められ、撤収が完了したテントは本陣班の荷馬車へと移されている。その作業の間をすり抜けて、ナツキは戦闘班の集まる場所へと向かった。
戦闘班の団員たちは、すでに七割ほどが集まっているようだった。特にスバルのいるグラス班長の一班の集まりが早い。長槍を片手に馬に乗り、もう出発の準備を整えている団員も何人も見受けられた。
「ナツキ」
横から名前を呼ばれてナツキが振り向くと、馬に乗って出発準備を整えた兄のスバルが、彼女のことを見おろしていた。
「遅いぞ。早く準備を進めろ」
「遅いって、それほどでもないでしょ? まだ出発の時間までは三十分以上もあるよ」
「俺たちは戦闘班だぞ。本陣班や索敵班とは違う。一番危険が伴うところにいるんだから、早く準備を進めて万全の態勢で出発するのが当たり前だろう」
なぜだかスバルはいらいらしているようだった。ナツキが寝る前にテントを出て行った時とは、明らかに雰囲気が違っている。スバルはあまり感情を表に出す方ではない。いつも淡々としていて、感情よりも理屈で行動する方が多いように思う。だからナツキは続けかけた言葉を飲み込んで、素直に返事をした。
「わかったよ兄さん。気を付ける」
「ああ、しっかり頼むぞ」
それだけ言って、スバルはすぐに一班の方へと戻っていった。
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