プロローグ

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 油断大敵。そう団長から何度も教わったはずなのだが。波音の身体は空中に投げ出され、落下を始めた。同時に観客の悲鳴と落胆の声が方々(ほうぼう)から飛んできては、波音の心を突き刺す。腰につけた命綱がぐいと身体を引っ張り、床に落ちる前に止まった。 (ああ、やっぱり。だめだった……)  波音は、自ら希望して曲芸団に入ったわけではない。それでも、責任を果たそうと、努力したはずだった。結果、できなかったのだから、頑張りが足りなかったのだろう。そんなことは理解していても、自分の向かうべきところが分からず、波音は悔しさから涙を流した。  どうして、曲芸団に入ることになったか。それには、団長である深水(ふかみ)(あお)が関連している。しかし、その話をするには、まず『波音は本来、この世界の人間ではない』ことから説明しなければならない――。
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