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染まる
握ったナイフを振り上げる。一度、二度、三度。柔らかいそれに突き立てて。
ーーほら。終わった。真っ赤になったそれは、ようやく地面に伏して動かなくなった。
血塗れの手を、倒れたそれの背で拭い、持っていたナイフを畳んでから、これで何度目だろうかとふと思う。
確かここ最近だと、二日前に一人。その三日前に二人だっただろうか。
最初の頃はほんの少し心が痛んだような気がするけれど、それがなぜだったのか、今は思い出せなかった。
信じられるのは自分だけ。
足元に転がるこれも、数日前に殺したそれも。所詮は赤の他人で、だったら殺してしまっても関わりはない。
踵を返して、その場から立ち去る。
特に隠すこともしない。いつか誰かが見つけるだろう。その時が来たら考えればいい。
足取りはいつも通り軽かった。
最初に殺したのは誰だったか。全く思い出せないけれど、いつの間にかこうなっていた。
殺し屋稼業とか、そういうわけではない。自分はただの学生で、たまたま手に入れたナイフを片手にぼんやりと生きているだけだ。
時には強盗に入った悪党を殺して。
時には道に迷ったよそ者を殺して。
時にはよく見知った友人を殺した。
殺す相手に何か基準があるかと問われると、まあ、全くと言っていいほどない。
お気に入りのナイフを持って、歩いてる。試したくなったから、振りかざす。それだけだ。
相手の恐怖の顔も何もかも、今ではもう思い出せない。正直、興味がない。
そこまで考えて「そういえば」と思い出す。友人を殺した時の話だ。
「どうしてこんなことするの」「優しくしてあげたじゃない」。
叫ぶ声がうるさくて、口と鼻をぐるぐるテープで巻いた。
やがて動かなくなって、なんだかあの時は残念だと感じた気がする。
人間は所詮、いつか死ぬ。
今すぐに死のうが、後でうっかり死んでしまおうが、結局は一緒だ。ーーだったら私が殺してあげよう。
ちなみに私は、私がいつ死ぬのか、知っていた。間違いなくあの人が、私を殺すんだ。
なんでか知らないが以前から確信していた。よく見かける肩にもつかない短い髪のあの子。
あの子に殺されるのだから、それまでは絶対に死なない。他の何も信じなくても。たった唯一。それだけは信じていた。
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