死人に口なし、されど手紙あり

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***  一昨日死んだミサトの遺書には、そう書いてあったらしい。朝、先生が言っていた。 「リンの言うとおり、上手くいったね」  放課後、ユリアが話しかけてくる。 「でしょ? いじめ自殺した子の手書きの遺書にはいじめのこと書いてなかったのに、遺書チップには記録されてたって聞いたから、慌てて調べたの」  私たちはミサトをいじめていた。世間的にいえばってことだけど。  それを隠すために、ミサトに催眠術をかけ、毎日楽しいと口にさせていた。遺書の中身を音読させていた。 「脳って単純だよねー。自分が楽しいと思いこんだら、どんなに辛くても楽しいことになる」 「遺書って感じじゃなく、録画録音するチップにしとけば良かったのにね。人権に反するからって、あんな遺書っぽい、手紙っぽい体裁にこだわるから」  クスクスと笑う。ああ、私もちゃんと寝る前にこの記憶を上書きしなきゃ。遺書を上書きする自己催眠の方法は、ネットで出回ってる。私たち、子供を中心に。  大人がどんなに頑張っても、やっぱり死人に口はないのだ。 「ミサトの次、どうする?」 「まあ、ほとぼりがさめてからで。マックよって帰ろー」  そんな会話をしながら、教室を出る。私の脳は今日も優等生を記録するはずだ。私は自分を、優等生だと思ってるから。
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