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君の顔を一目見たい
暑い日差しの中、学校に到着する。いつも通り学校の玄関を潜り抜けて、廊下に進み私の教室へと向かうところだった。
私の肩に強い痛みが生じた。
「あっ、ごめんなさい。では」
「えっ?ちょっと……」
私の顔を見ずに言葉を言い放った長い黒髪を垂れ流してほんのりとした香りを残して凛とした姿勢で廊下を歩いて行った。私は前にも何度か似たことがあったが、男女問わずに顔を見ては謝りもせずに黙って渋々と去って行くのだった。だから私は今出会った彼女の顔を一目見たいと思ってしまうのだった。これがいわゆる一目惚れというものなのだろうか。だが、顔を見てないのでそうとも言えないのだろう。
そして一週間経った月曜日。私は彼女のことを体育館の前の表彰台で見て、どういう人なのか理解した。彼女は表彰台の前に立っては黒い髪を垂れ流して顔を見せないまま話している。彼女は私たち学校の看板とも言えるだろう生徒会長だった。
彼女のことは教室から帰ってからクラスメイトたちが「貞子会長」と呼んでいた。髪が長い幽霊のような妖怪のようなあのお化けと彼女の見た目があまりにも似ていたからだろう。彼女の名前は『篠崎怜』と言ってそれも「貞子」と「怜(霊)」にかけているのだろう。私の内心は腹ただしかった。だが、あくまでもクラスメイトに合わせないと行けない気がした。なぜなら、仲間外れにされるのが怖かったからだろう。
またある日、古典の授業で平安時代の貴族の姫が簾の隙間から顔を覗かせて見せていた絵を見てクラスメイトは「会長だ」と連呼していた。腹立たしさと共に彼女の顔を見たいと好奇心に思ってしまうのだった。
彼女の顔を見える機会は突然来た。
また私はいつも通り朝の学校の廊下を歩いて行った。そしたら私にまたぶつかってしまった人がいた。その人はぶつかった拍子に体を崩して倒れ込んでしまった。幸いにもスカートは長めに履いてるらしく見てはいけない物を見ることはなかった。しかし体を起こす際に長かった髪の毛から顔を覗かせていた。その顔に対して私は彼女にそのままの想いを伝えた。
「美しいです、篠崎会長」
彼女は私の言葉を聞いて私をかわすかのように言った。
そして翌日から彼女の長い髪の毛は後で縛られて顔がはっきり現れるのだった。
だが、私と彼女の恋がどうなったかは想像にお任せするのである。
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