水槽さん

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 こんなふうに、いつだって、水槽さんは自分のすべてに満足していたのです。  その日、水槽さんのおなかに飾られていたのは、青いつややかなからだと、その何倍もあるおおきなひれが優雅な熱帯魚でした。  水槽さんの持ち主がいちばん最初に入れてくれたのは、ひらひら赤くてかわいい、どこにでもいるような金魚でしたが、そのうちにもっとずっと長い名前の、きらきらした魚を買ってきてくれるようになりました。  いま泳いでいる青い魚は水槽さんもおきにいりで、これをからだに飾っている自分のことを思うと、ついうっとりとしてしまうほどでした。  その日、水槽さんのアクセサリーにえさをやろうと缶をふったとき、中身はほとんど空になっていてちっとも出てきませんでしたので、持ち主は新しい缶をとりに部屋を出ていきました。  水槽さんの上にはいつもなら、ちょうどよくあつらえられたふたがのっかっているのですけれど、そのときばかりはそんなわけで、ちょっとわきへどかしてあったのです。  それを目ざとく見つけたものがおりました。  おとなりの家で飼われている、猫のたまです。たまは水槽さんのおなかにいる、ひらひらした魚が大好きでした。
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