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いえ、ほんとのことをいうと、魚ならなんだって好きなんですけれどね。おおきなひれをゆらす美しい魚は、たまにとってはとびきりの獲物というわけでした。
持ち主が部屋をはなれたすきに、窓のそとで様子をうかがっていたたまはするりと部屋へ着地しました。そして、ふたをはずされたままの水槽さんを見るや、これはチャンスとばかりに姿勢をひくくしたかと思うと、つぎの瞬間にはもう台の上に乗っかって鼻をひくつかせていたのです。
あっと思う間もなく、たまの黄色いつめが水槽さんに襲いかかりました。
太い脚とぼさぼさのしっぽをぴんと張った猫のいきおいはものすごく、たくさんの水で満たされて重たいはずの水槽さんのからだが、ぐらりとかたむいてゆっくりと下へひっぱられていきます。下へ、下へ、したへ……。
がしゃん、という音をきいて、あわてた足音が部屋へもどってきたとき、水槽さんはほっとしました。もちろんすぐに駆けよってすくい上げて、もう大丈夫だよと言ってもらえるものだと思いました。
しかし、持ち主はまず猫をおいはらうと、つぎに悲しそうな目で床を見わたして、とびはねるかわいそうな青い飾りをそっと拾い上げたのです。
水槽さんは、水曜の燃えないゴミの日に出されました。
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