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幼い頃の弟が語るかなり漠然とした成人論に、保川結奈(やすかわゆいな)は無意識下で侵されていた。
とにかく20歳になることは格別で、目に見えて世界が煌めきを覚える季節である、と。
浪漫主義の弟が、まったく真逆の姉に唯一与えたふんわりした希望。
そんな20歳の誕生日を、結奈は一人で迎えた。
20年前、結奈たちを産んでくれた母は、5年前に病気で他界。
父については、そもそも顔も名前も知らず、その生死すらとうとう聞けず仕舞いだった。
親戚の類に倦厭され、未だ仕草に表情に幼さの残る双子は、世界に2人だけになった。
そして、いつも隣にいるのが当たり前だった弟も、18歳の冬のある日、生涯の幕を下ろしてしまう。
それはあまりにも突然の出来事で、結奈には受け入れる以前に全く現実味がなかった。
でも、兎角夢見がちだった弟がいた空間に、彼の姿がないまま時は1年以上も流れてしまっていた。
日付が変わる7月16日の0:00。
ただただ時計の針の動きを目で追う。
どのくらいの間、そうしていたのかもよくわからない。
不意に携帯が震えて、かすかに脳のどこかがそれを感知できた。
手に取ると、西脇麻子(にしわきあさこ)からのメッセージ着信の通知が縦続く。
ー誕生日おめでとう
ー20歳なんて信じられない、あっという間だね。まだ起きてるならちょっとだけ降りておいで
ー具合、良ければでいいからね
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