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十字架と救済
水底に沈んでいるかのような息苦しい深い眠りから、私は浮上するようにゆっくりと目覚めた。眼前には清流とは言い難い、けれども東京の川よりは幾分かマシな川が流れている。川幅と立ちこめる霧のせいで、向こう側がまったく見えない。
私は思い頭を左右に振りながら立ち上がる。
角の取れた丸い石と雑草ばかりが周辺を埋め尽くしている。
「どこ、ここ……」
一般的な二十代の女性ほどの貞操観念は持ち合わせている私は、無防備に河原で寝入るはずがない。そもそも、この景色は近所のどこにもなかったものだ。
自分がこの場所にいる理由を探し、記憶をたどる。けれど頭の中には辺りに立ちこめているものと同様、霧が広がっていて何も思い出せない。
確かに理解できているのは、私が私たる根本的な情報のみ。つまり映画によくあるような厄介なタイプの記憶喪失ではないらしい。
この場所に来た経緯が思い出せないのは、きっと寝ぼけているだけなのだろう。もしくは、すごくリアルな夢なのか。
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