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君が死んでしまってから半年が過ぎた。
今、僕は、ほかの誰もが経験しない結末を経て、ここまで来た。
しかし、ここはどこだろう。暖かくもなく冷たくもなく、浮遊しているようで縛りつけられた感覚が体を覆っている。
暗くてなにも見えない。これは辺りを照らす光がないからなのか、それとも僕の目が潰れてしまったからなのか。
だいたい、こうしてまだ疑問を感じている僕は、生きているのだろうか。思考できるということは脳が活動しているということだ。
……いや待て。
そもそも普段から僕は、この体が生きているなんて意識をしていただろうか。
気がつけば人類の叡知を結集して作られた人型ロボット兵器のコックピットにいて、当たり前のように奴らと戦い、消えていく多くの人の命を見送って……。
あんなに「生きること」に皆が懸命だった世界にいたのに、僕はその実感が希薄だった。
そうだ。そもそも僕にはなにもなかった。
君のときのように、涙を流して引き留めてくれる仲間も、感謝を告げるべき両親も、愛しいと思える人も。
君が死んだときだって僕はただの傍観者だった。
君とは言葉を交わしたこともないし、顔を見かけるのもまれだった。
君は部隊のエースパイロットで僕はただの一兵士。君の機体は特別にカスタマイズされた新型機で僕のは量産型の古いもの。君は上層部の司令官にも意見を言えたけれど、僕は考えることなく命令に従うだけ。
その他大勢の、ただ、そこにあるだけの存在が僕。
だから不思議だったんだ。君が最後に僕と目を合わせたことが。
もうどれくらいこうしているのか。きっと僕は死んでいるのだろう。君のようにうまくやれたかはわからない。
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