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暖簾にラーメン・ラスベガスと書いてある。間違いなさそうだ。ラスベガスらしさは微塵も感じないラスベガスだ。
引き戸を開けて入る。清潔感漂うキレイな店内だが、他に客はいないようだ。奥から店主が出てくるが、ラーメン大将という雰囲気ではなく、ラーメン好きがラーメン屋をやっているという雰囲気の人物だ。
とりあえず、サンダーラーメンを頼んでみた。どういう物が出てくるのだろうか。
小太りでメガネを掛けた店主は、普通に麺を茹で始めた。普通だ。普通のラーメンだ。と思っていたら、湯切りの時に二本の電極の間を通るように、ザルを振り始めた。
電極から青白い火花が飛び、バリバリと音を立てる。
「なるほど、これがサンダーラーメンか。」
麺が高温の電撃に焼かれて、美味しそうな香りが漂ってくる。
つまり、電撃で表面に焦げ目を付けて、香ばしい麺を作るのか。ただそれだけのことなのか。
どんぶりに、ニンニクの効いたスープと麺を入れ、出来上がったのかと思ったら、店主はケーブルのついた二本の電極を持ち、どんぶりにつけた。奥にある謎の機械から、ブーンと、うなるような音がする。
しばらくすると、ラーメンどんぶりから湯気ではない煙が立ち昇るのが見えた。電極を一気に引き上げると、バンという音とともに味噌の焦げる、なんともいい匂いが漂ってきた。
「はい、おまちどう。サンダーラーメンです。」
店主はそう言うと、カウンターテーブルにあるレールにどんぶりをセットした。
よく見ると、レールの中には電極が仕掛けてある。どんぶりに電気を供給する装置らしい。
「あ、電気きてますんで、気をつけてください。」
つまり、電気ごと食べろと言うことなのか。電気を食べる? なるほど、これがサンダーラーメンか!
怖い。正直、電気など食べたことないので、怖い。しかし、どんな味がするのか、食べてみたい気持ちのほうが強い。それに、ちゃんと調理師免許持った人物が、店舗で販売しているのだ。危ないはずがないだろう。
「いただきます。これが最後の晩餐になったりしてね。」
レンゲでスープをすくい、恐る恐る口をつける。電気が来るかと思っていたが、そんなことはなかった。味噌の香りと、ニンニクの匂いが、鼻から抜けてゆく。ニンニク好きにはたまらない、味噌よりもニンニクのほうが勝っている。
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