百億の男

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〇東都大学東倉教授の部屋 薄暗い部屋。山積みの資料に埋もれて、東倉明高(68)が座ってレジュメを読んでいる。一枚目に「ダンジョンによる地方創生と応用」とある。 雲井ケイ(21)、机を挟んで立っている。 ケイ「先生いかがでしょうか」 東倉「雲井くん、君、夕暮市の出身だっけ」 ケイ「はい」 東倉「最近どうなの」 ケイ「大変ですが、ひまわりが綺麗です」 東倉「ふむ。花ぐらいは咲くようになったか。まあ花だけじゃ飯は食えんよね。うん、卒論に良いテーマだと思うよ。ぼくも完成が楽しみだ」 ケイ「ありがとうございます」 〇東都大学・中庭 緑の多い中庭。セミが鳴いている。 ケイ、ハードカバーの経済書を何冊も抱えながら首にスマホを挟んで歩いている。 ケイ「夏休み? ごめん、帰る暇なくて……そう、ヨーロッパ」 〇灯里家・日本家屋の軒先 灯里ハナ(21)、和服姿、軒先に座りひまわり畑を見ている。後ろ姿に影が落ちる。 ハナ「研究旅行だっけ? 帰って来れないか。残念」 ハナ、左手の薬指の指輪をいじる。 〇東都大学・中庭 ケイ「ほんとごめん。私も久しぶりにハナに会いたいけどなかなか」 ケイ、本のバランスを崩して、抱えなおす。 ケイ「そっちはどう? 役所の仕事、慣れた?」 ケイ、スマホを持ち直す。左薬指にはハナと同じデザインの指輪。 〇灯里家・日本家屋の軒先 ハナ「そこそこかな。お給料安くって困っちゃう」 〇灯里家・居間 腰の曲がったハナの祖母・灯里トメ(80)、机にごちそうを並べている。 トメ「ハナ、いつまで話してるの。もうすぐお見合いにいらっしゃるよ」 ハナ「はあい。今行きます。はあ、また今日もお見合いなの」 ハナ、立ち上がり、左薬指から指輪をはずす。 〇東都大学・中庭 ケイ「ちゃんと断ってよ」 〇灯里家・日本家屋の居間 ハナ「もっちろん。愛してるよ、ダーリン?」 ハナ、指輪をチェーンに通し、首につける。
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