百億の男

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〇酒場・店内(昼) ケイ、テイクアウトの看板と、財布を見比べる。酒場の主人テオ(55)、笑顔で見守る。 ケイ「一ユーロ三百円だから……ギリピタ六百円で、サラダが千二百円……うう、ユーロ高……」 テオ「うちのギリピタ、ギリシア一うまいよ!」 ケイ「じゃあギリピタを一つ!」 テオ、手早くギリピタを作る。 ケイ、お金を出しながら、壁に貼ってある六年前とラベルが付いたイオアニアの写真をまじまじ見つめる。原っぱが広がり、家がまばらに並んでいる。 テオ「見違えるだろ?」 ケイ「こんなに変わるものなんですね」 テオ「ほんと、ダンジョン様様だよ」 テオ、出来上がったギリピタを差し出す。 テオ「おまけ、ポテト大目にしといたよ」 ケイ「ありがとうございます!」 テオ「ふふ、旅を楽しんで」 〇酒場のテラス席 昼時、テラス席は冒険用の服装をした人たちで混雑している。 ケイ、テラス席の端に座り、ギリピタをつまみながら壁に貼られた張り紙を見る。 用心棒求人とあっせん、指名手配犯の張り紙、パーティーメンバーの募集、武器の交換売買など。 ケイ「用心棒、高いなあ……一日二万円」 わたあめ「きゅぃいいい!」 叫びながら飛んできた白いふわふわしたなにか、ケイの胸元に飛び込む。 ケイ「なに!?」 ケイ、勢いよくち上がり、胸元に手を突っ込んで引っ張り出す。 わたあめ「きゅぃいい」 涙目でケイを見つめる、綿菓子に口と目を付けたような生き物、わたあめ(?)。 ケイ「なんだ、きみ」 わたあめ「きゅぃいい!」 エッグ「おねーちゃん、それちょーだい」 トマト「ふわふわ! ほしー!」 振り返ると、がたいの良い男、ポテト・ボーノ(35)と、足元にしがみつく子供二人、エッグ・ボーノ(8)とトマト・ボーノ(5)がいる。 ケイ「この子?」 ポテト「すまねえな、子供がわがままで」 ケイ、差し出そうとするが、魔物がふるふると震えて暴れる。 トマト「ふわふわ……良いおかね……」 ポテト「こら、トマト」 ポテト、トマトとエッグを抱き上げる。 エッグ「おかねいっちゃダメ! かわいいからほしーっていうの!」 エッグ、鼻水をすする。 トマト「はぁい、ふわふわ、かわいーほしー」 ケイ「はあ……良いお金ねえ」 ケイ、わたあめを目の高さに吊り上げる。 わたあめ、ぶるぶると震える。
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