第一章:人を評価するAI

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第一章:人を評価するAI

「ここにお集まりの皆様の中には、成果主義の導入をご検討された方、あるいは実際に導入された方もいらっしゃるかもしれませんね。より多くの成果を挙げ、社の利益を上げることに貢献した者がそれに相応しい地位と給料を得る……一見、ごく当たり前のことです。しかしそれでは、実際にそれを試されてうまくいったという方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。ちょっと手を挙げてみていただけますか?」  私は会場を見回してみたが、挙手している者は一人としていなかった。 「――はい、誰もいないようですね。助かりました。もしここで、皆様が一斉に挙手されたりしたら、私の方は今日話すべきことが無くなってしまいます」  たとえ成果主義の導入がうまくいっている企業の人間が来ていたとしても、日本人の常として他に手を挙げている者がいなければ率先して挙手しようとはしないであろう。その点を計算に入れた上での、このパフォーマンスだ。  もっとも、挙手する者がいたらいたでその時は柔軟に対応できるよう準備はしてあるはずだ。  今、壇上に立っているうちの社長は、こうしたプレゼンテーションのうまさでは定評がある。  学生時代に私と彼の二人で今の会社を立ち上げてからまだ何年も経っていないが、彼はカリスマ経営者として雑誌の表紙を飾ったこともある。  一方、副社長である私の方は一般にはほとんど知られていない。  しかし、そのことに対して不満を抱いたことは無かった。私が好むのは言うなれば脚本家の立場だ。役者の様に舞台に上がり、衆目を集めるのは好みではない。
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