第三章:人望ある副社長の選択

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 それから月末までの間、私は引き継ぎに忙殺された。  時には、『私には副社長の代わりなんて無理です』と泣き言を口にする後任者を励ましたりする必要もあった。  一般には知名度の低い私だが、業界内ではこの会社を実質的に回しているのは主に私だと既に知られている。その私の辞職が、NAVYによる決定からしばらくして公式に発表された時、株価は一時的に下がることとなった。  だが、私がいなくなってもこの会社は大丈夫だという対外アピールを社長が事前に練りに練って用意しておいたため、すぐに持ち直すことができた。  立ち上げメンバーの一人であり、実務の多くを担う私の退職をNAVYが推奨したことについては様々な憶測が流れ、中には私が密かに横領をしており、人間は誰も気づかなかったそれをNAVYは見破ったのだ、などという不快なものもあった。  そうした噂を払拭するという目的もあったのか、その月の最終日に開かれた私の送別会は盛大なものだった。  その席上で、社長に尋ねられた。 「これから先は、どうするつもりなんだい?」 「そうですね……」  私は、少し考えてから答えた。 「少し休んだら、また新しい会社を立ち上げてみますよ」  この会社を立ち上げた時であれば、無名の学生で対外アピールも苦手だった私には資金や人を集めるのは困難だった。だが今なら、私も業界内では名の知られた存在だ。 「そうか。その時は教えてくれよ。お祝いに花くらいは持って行くよ」 「まあ見ていてください、私が無用だというNAVYの判断は間違っていたと、世間に知らしめてみせますよ」  社長は苦笑した。 「うちとしては、それは困るかもしれないが、まあ頑張ってくれ」 「もっとも、そうなったらそうなったで、ちょっと寂しいような気もしますけどね。自分の子供がダメな子だったと親の手で証明してしまうようなものですからね」
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