エピローグ

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 元副社長が自宅で死体となって発見されたのは、送別会からわずか三日後のことだった。結果的に、あの送別会が本当に最後の別れになってしまったことになる。  死因は心筋梗塞だった。  今にして思えば、NAVYによる新人事案発表の少し前に、社内健診があった。そしてそのデータもまた、NAVYに送られていたはずだ。 『確かにいくつかの危険因子はあったが、突然死を警戒するほどのものではなかったし、ましてやその時期を予測するなんて不可能だ』  社内健診を担当していた医師は、彼に対してそう言った。  だが人間の医師にとってはそうでも、NAVYには、人間には見えない何かが見えていたのかもしれない。  もしそうであるなら、むしろその死を回避するための提案はできなかったのか――と言いたくなるのが人情というものである。  だがそれは、人間側の勝手な言い分に過ぎない。当時のNAVYは飽くまでも最適な人事を考案するよう設定された人工知能であり、健康管理や人命救助に関して何らかの助言を行うようには作られていなかったのだから。  それに、本当にNAVYがこうなることを予測できていたのか、それとも何か全く違う理由で当時の副社長を退職させたのかは、結局のところ分からないままなのだ。  唯一つ確かなのは、NAVYの判断に従ったことで彼の会社は危機を回避できたということだけである。 「君の子供は、優秀な子だったよ……とてもね」  最後にそれだけ伝えると、彼は墓前を去った。
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