第三章:人望ある副社長の選択

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第三章:人望ある副社長の選択

 私は、息せき切って社長室に飛び込んだ。 「社長、これはどういうことです!?」  社長は半ば呆れ顔で私を見た。 「どういうことって……君がそれを聞くのかい? 僕に? どういうことなのか聞きたいのはむしろこっちの方だよ」  あまりの事態に思わず冷静さを欠いてここへ来てしまったが、我に返ってみれば、社長の言うことはもっともである。あの人事は社長の意思とは無関係にNAVYの判断をそのまま発表したものであり、そしてそのNAVYについて誰よりも知っているのは他ならぬこの私である。 「あれを作ったのは君だろう? 何で自分が辞めろって言われるはめになったのか心当たりは無いのかい?」 「残念ながら」  NAVYは人間が判断基準を教えこんでいくエキスパートシステムではなく、機械学習により自ら判断基準を学び取るタイプの人工知能だ。作った私にはNAVYがどのような仕組みで学習しているのかは分かるが、できあがったNAVYがその後何を学び取り、どのような基準を作り上げてあの判断を下したのかまでは分からない。  そして、それを人間に理解できるように解説する機能も無い。  大量の情報を扱い、人の立場を変更することによる複雑な相互作用を全て計算して判断を下す人工知能の思考過程を人間に理解できるように解説させるのは、昆虫に人間の思考過程を理解させるくらいに困難だからだ。  更に言えば、NAVYが判断材料とした情報の中には、私や社長にも閲覧不可であるものも多い。  一般の導入先では社員の反発が予想されるためやっていない場合が多いが、うちの会社では会議での発言や提出された書類のみならず、社内で交わされた会話や社内健診の結果、社用携帯電話の位置情報、社員食堂での注文内容などもNAVYによる情報収集の対象となっている。  ただし、それらのデータはプライバシーの観点から、人間は誰も閲覧できないようになっているのだ。
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