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崩れていく。砂の城が壊れるように呆気なく。硝子の粒がさらさらとこぼれ落ちるように。灰が風にさらわれるように。体は血の一滴も流さずに、その姿を無へと還してゆく。
私の望んだ結末はこんな滑稽なものではなかった。
私は花に、美しくも誇り高く咲く、あの花になりたかった。
死に憧憬を抱くことなく、天寿を全うした末に咲いた花。
心の臓から出た芽は宿主の血を吸い、鮮やかにそして美しくその蕾を綻ばせてゆく。瞬く間に開花したそれは如何なる宝石でさえも勝るものはないと思わせられるほどに美しかった。
あの時から私は一瞬たりともあの姿を忘れたことなどなかった。しかし今思えば、それと同時に私はあの花を通して己の死を視ていたのだろう。
私はなんと愚かであろうか、理想を追い求めるあまりに自らが一番厭っていた結末を迎え入れてしまうとは。
身体は崩壊を遂げ、意識は深海へと誘われてゆく。海へと溶けきる寸前、思うことは一つ。
──あぁ、なんと美しくない幕引きだ。
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