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「いらないんだったら、わたしにちょうだい」
七海が手をたたいた。いいことを思いついた、というようなキラキラしたひとみ。
「だめ。それは出来ない」
「どうしてぇっ?」
と、七海はふまん顔になる。キラキラはギラギラだ。
「かわいそうだから。直ぐにしなせてしまうから」
「七海、ちゃんとせわするもん」
「だめ。うちにおいていたら、こいつ、やりたいことが出来ないじゃないか」
「やりたいことが出来ない?」
「それは、かわいそうだろう? ずっと、はこのなかなんだぞ」
「う~ん」
なっとくしたような、しないような顔の七海。
「……じゃ、いいもん。七海、山で自分のクワガタをつかまえるから。それなら、いいでしょ?」
そうきたか。一度、しなせるけいけんをしないとこんなものかもしれない。
「いや、だめだ。山に入ると、ヘビが出るぞぉっ? マムシが出るぞぉっ?」
「ヘビはいやぁっ。マムシいやぁっ」
おどかしてやると、七海は居間から飛んで出て行った。
よく日。うらにわのカボスの木に、ノコギリクワガタをとまらせてやる。
「元気にくらせよ」
と、なでてやった。
キィキ、キィ~ッ。
通りかかった自転車が、ブレーキをかけた。うちの近くの畑でやさいを作っているおじさんだ。
「直太ちゃん」
と、自転車からおりたおじさんによばれる。ちゃんづけされるのは、はずかしくなってきていたけれど。母さんが言うには、おじさんは、ぼくのことを産まれたころから知っているらしい。
おじさんにとって、ぼくは、いつまでも小さな直太ちゃんなのかな?
「クワガタをつかまえたのかい? へぇっ。いいスイギュウだな」
「つかまえたというか……。うん。でも、もうはなしてやるんだ」
ちょっとだけ、はしょった。
「そうなのか。おじさんがこどものころは、なんびきつかまえたのかを、じまんし合っていたけどなぁ。スイギュウなんていたら、ふんぞりかえってたよ」
と、おじさんはわらった。
「しなせると、かわいそうだから」
「そうか。そうかもな」
おじさんはうなずいた。
「じゃ、べつの虫はどうだ? いるか? カナブンなら、二百ぴきぐらいつかまえてやれるぞ」
「いやいや。カナブンはいいよ……」
と、ぼくはことわった。
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