エピローグ

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『分かっているさ。だから、処置に使う細菌に改良を施すつもりだ。これまで使用していた細菌は、シアノバクテリアに細胞内寄生菌の遺伝子を加えてヒト細胞内で共生可能にしたものだったが、細胞内寄生菌が有している他の個体へと移る性質までは与えていなかった。万が一、細菌に重篤な副作用を引き起こす性質があった場合、処置を受けた人間から別の人間へと細菌が感染を拡大できるようでは大変なことになるからな』 「安全面を第一に考えれば、まあそういう結論になるだろうね」 『しかし今となってはもう、処置に使う細菌の安全性は十分に確認できている。人から人へ移る性質を持たせても良いだろう。そうすれば、何も全人類に病院で処置を受けさせなくても、すぐに皆が処置を受けたのと同じ状態になる』 「なるほど、それは良い案だ」  話をしながら私は、彼の性格が以前とは微妙に変容しているという印象を受けた。  短時間とはいえ、首だけの状態で曝されたことで、やはり脳に何らかのダメージがあったのだろうか。あるいは、文字通り生きたまま断頭されるという壮絶な経験が、彼の価値観を変えてしまったのかもしれない。  だが、何れにせよ私にとっては好都合だ。以前の彼は、私の計画に利用するには潔癖過ぎた。 「それでは、せっかくなのでその菌には、感染を拡げるような行動を宿主である人間に促す性質を持たせてみてはどうだろう。そうだな……例えば、未感染の人間に噛みつきたくなる、とか」
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