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「ところで、私の目の前にあるこの死体の死因は不明、つまり変死体だ。であるからには、司法解剖をしなくてはならない。とはいえ、この死体は普通と違って動くからね。それでは解剖に支障をきたす。しかしさすがに首を斬り落とせば、もはや動くことはないだろう。いやー、死刑が行われていた時代のギロチンがまだ保管されていて良かったよ。なにぶん古いもので切れ味は鈍ってそうだったから、一回でスッパリというわけにはいかないかもしれないけどね」
いつの間にか、屈強な男達が法相の周囲に集まっていた。
「連れて行け」
法相が彼らに命じると同時に、鉄格子の扉が開けられる。
私はその隙をついて逃げ出そうとしたが、その試みは一秒と保たなかった。気がついた時には男の拳が腹にめり込んでいた。
圧迫された胃から酸っぱい液がせり上がり、口からこぼれ落ちる。
「おいおい、程々にしておいてくれよ?」
法相が苦笑いしながら声をかけた。
「死体を殴ること自体は別に罪じゃあないが、死体に新しい傷がついたら死体損壊罪だぞ?」
「しかし法相、この死体は最初から傷だらけだったじゃないですか。だから、司法解剖時に多くの傷が見つかったとしても、それは誰かが死体損壊を行ったせいとかではなく、元々あったものですよね?」
「ああ、そういえば、そうだったかな。うん、確かにそうだった」
男はもう二、三度私を殴りつけ、すっかり抵抗する力の失せたその身体を半ば引きずるようにして刑場まで運んで行く。
断頭台に首を固定された時、私は最後の力を振り絞って叫んだ。
「畜生、貴様ら、呪ってやるぞ!」
声を出すだけで体中が痛んだが、そんなことには構っていられないほどの憎悪が私の内に渦巻いていた。
私は、怨霊などというものの存在を信じたことはない。だが、この時ばかりは、それがあって欲しいと思わずにはいられなかった。
そして、断頭台の刃が落とされた。
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